こんにちは。ひとりで.comです。
2017年2月21日放送のガイアの夜明けは「その”便利”、必要ですか?〜追跡! 「サービス激化」の裏側〜」と題して、配達現場の過酷な状況と24時間営業をめぐる苦悩を特集します。
豊かさの裏側にある過酷な労働環境
【目次】
”即配”が求められるインターネット通販
神奈川県座間市にあるとある倉庫。倉庫があるフロアだけで東京ドーム半分の広さもあるという。この倉庫内のあちこちに洋服が並んでいる。その一角では、何人ものモデルを使って撮影が行われている。撮った写真はすぐさまパソコンでチェックする。
実はここ、インターネット通販のMAGASEEK(マガシーク)の倉庫兼撮影現場。
MAGASEEK(マガシーク)はファッション通販サイトとしては業界第2位。会員数は200万人を超えます。すべての商品は送料無料。そして配達は当日発送されるのが特徴です。
東京都千代田区のMAGASEEK(マガシーク)本社。配達のスピードにこだわるのは社長の井上直也氏。
ネットビジネスに占めるコストの中で特に物流は切っても切れないため、物流を制するものはネットビジネスを制する
と言う。
なぜそこまで配達の速さにこだわるのか。
実際のお客さんから届くメールを見てみると…
先ほど注文したのですが、いつ出荷されますか?
まだ出荷の連絡が来ていません。ちゃんと今日出荷されますか?
といった商品を少しでも手にしたいというお客さんの要望が多い。
MAGASEEK(マガシーク)のみならず、宅配の速さにこだわる通販企業が増えている。
楽天は昨年、都内の一部を対象に「楽びん!」という最短20分で配達を行うサービスをスタート。アマゾンジャパンも「プライムナウ」というサービスで最短1時間以内に配達するサービスを東京23区全てに広げた。
これを受けて、MAGASEEK(マガシーク)の社長 井上氏も
あれだけ「アマゾンプライム」とか出てくると、翌日には最低届かないと。そこのスピードをどうコントロールするかが大事
と言う。
マガシークの物流部門の責任者が、少しでも発送までの時間を短縮するためにとった策が…ダンボールの形状の変更である。これまで組み立てる必要があったダンボールを、ワンタッチで形が整う形状のものに変更した。これによって、平均5秒ほど時間が削れるようになったという。
更に腕に仕込んだ端末には注文された商品の画像が映し出されており、この画像ピッキングシステムの導入により、注文品を倉庫の中から探し出す時間を2割短縮できたという。
お客さんの要望に応える形で、ネット通販の配達サービスは競争が厳しくなっている。
「不在」との戦い。宅配現場の実状
埼玉県川口市の運送会社トランプ。1994年創業の宅配便の小さな運送会社です。ここで運行管理を担当する宇田さん。ある大きな問題を抱えていた。
圧倒的に荷物が多く、1人1人が限られた時間の中で配達しなければならない。100%要望に応えなくてはいけないが、それが物理的にできていない。
この運送会社トランプは、大手運送会社から宅配業務を請負い、その請け負った仕事を契約した個人ドライバー約100人に委託して配ってもらっている。
運送会社トランプが委託している個人ドライバーのひとりの1日に密着。
朝8時に家をでるとまず向かうのは大手運送会社の集配センター。少しでも効率よくするため、配達順に荷物を積み込んでいく。およそ60個で荷台はいっぱいになった。午前9時半、早速配達へ向かう。いまや荷物の9割はネット通販の商品だという。たくさんの荷物を少しでも早く配達するにはいくつかハードルがあるのだという。
それは、配達時間の指定サービス。その中でも午前中の配達が山場だという。時間指定で午前中の配達を希望しているにも関わらず、午前10時を過ぎると不在率が高くなり、荷物の配達が完了できなくなってしまうため、いかに不在にならないように回るかがカギなのである。
この個人ドライバーは荷物の配達1件につき150円を受け取る完全歩合制。不在の場合、何度足を運んでもお金にならない為、不在が続く事は死活問題となる。
この再配達は運送業界にとっても大きな問題となっており、今や宅配便の20%にものぼる。
再配達には、もう1つ問題がある。近年、不在でも荷物を預けておける宅配ボックスが置いてあるマンションが増えたが、宅配の増加とともに、宅配ボックスがいっぱいになってしまう状況が発生している。この場合、個人宅の不在のときと同様に荷物の持ち帰りとなってしまう。
午後6時を過ぎると日中不在だった人が再配達の依頼をしてくるピークの時間を迎えるため、ここからが勝負の時間帯となる。
この日仕事を終えたのは夜10時過ぎ。それでも荷物が15個ほど残ってしまった。この個人ドライバーは毎日150個ほどの荷物を配達すると言う。帰宅したのは夜11時過ぎ。こういった生活がほぼ毎日だという。
過酷な労働環境を訴える元ヤマト運輸社員
横浜市中区にある神奈川労連。ここは様々な業種から個人でも加入できる労働組合である。
ここにとある男性2人が相談にやってきた。彼らは元ヤマト運輸の社員。16年間宅急便ドライバーとして勤務し去年退職。
これまでの勤務時間表を見ると、午前8時前から午後11時過ぎなどの長時間労働が常態化していた。また過労死ラインと呼ばれる「残業80時間以上」が5ヶ月連続で発生していた。
アマゾンジャパンが入ってきて年々労働時間が伸びていき、サービス残業が常態化した
という。
アマゾンジャパンは、2013年に宅配業者を佐川急便からヤマト運輸に変更し、それによって、ヤマト運輸の宅配便取り扱い個数が3億個前後増加した。
この2人は、神奈川労連と共に、残業代不払いと長時間労働の改善で動き出すことにした。
ヤマト運輸もアマゾンジャパンの取り扱いを開始後、ドライバーを約2,500人増員させていた。しかし、それでも増え続ける配送個数にドライバーの数が追いついていないのが実状なのである。
2017年2月6日。弁護士を立てて、ヤマト運輸側とまずは協議を行うことになった。もし解決しない場合は、裁判をするという。。
便利なサービスの裏側で、労働環境の悪化が問題となって広がっている。
こうした中、再配達をなんとかなくそうと、業界全体で動きが始まっていた。
戸建用宅配ボックスの普及がそのひとつ。日本郵便、大和ハウス工業、ナスタが共同で開発した。まずは2月から埼玉県越谷市で分譲されている住宅で導入。再配達を減らす一歩として広がっていくのか…。
【ナスタ社が販売する小型宅配ボックス】
時間短縮に動く小売・外食業界
24時間営業のファミリーレストランのガスト。深夜のお客さんが近年減っているという。昔は、若者の溜まり場として売上もあったが、現在は深夜帯は閑散としていることが多くなった。そんな中、ガストは新たな一手を打った。それは…24時間営業を辞めること。午前7時開店、午前2時閉店という形態に変更した。
営業時間の短縮を行った以後は、忙しいランチなどの時間帯にスタッフを集中的に配置するシフトに変更し、お客さんへのサービスアップに力を入れ、売上げアップを図ろうとしている。
このように、これまで営業時間の拡大を競ってきた企業がいま、人手不足や客の減少などで、逆に時間の短縮へと動き出している。
【時間短縮の例】
百貨店 | 三越 | 初売りを1月2日から1月3日に |
伊勢丹 | 初売りを1月2日から1月3日に | |
髙島屋 | 一部店舗で営業時間を1時間短縮 | |
外食産業 | ロイヤルホスト | 24時間営業を廃止(2017年2月〜) |
ガスト | 7割の店舗で午前2時閉店 | |
ジョナサン | 7割の店舗で午前2時閉店 | |
マクドナルド | 24時間営業の店舗が4割に | |
スーパー | イオン | 一部店舗で開店時間を1時間遅らせる |
東武ストア | 26店舗で24時間営業を取りやめ |
しかし、敢えてこの流れに逆行するかのように、24時間営業にチャレンジしようとする企業がある。そこにはいったいどういった狙いがあるのだろうか。
深夜ニーズにアプローチ24時間薬剤師のいるウエルシア薬局
関東を中心に全国に1,500店舗を展開するウエルシア薬局。店内はまるでスーパーマーケットのような品揃え。トイレットペーパーのような日用品から、たまごや野菜などの生鮮食品も取り揃えている。更に薬コーナーの奥には処方せん受付コーナーがあり、調剤併設型となっている。
下記グラフのように、ドラッグストア業界各社の売上高は拮抗しているため、上記のようなサービスは当たり前で競争が激化している。
そこでウエルシア薬局では、大胆な策に打って出ていた。
夜中に病気した時に役に立たないのが薬局と言えるのか。今までやってきた延長線上に大きなマーケットはない
その戦略のひとつが2年前から始めた24時間営業への挑戦だった。24時間営業の店舗では、処方箋・第一類医薬品を24時間取り扱う。未開拓だった夜間のニーズを狙っての事。24時間営業で何より重要なのが、薬剤師の確保。1日あたり3人から6人の薬剤師でシフトを回し、夜間は薬剤師ひとりで対応する。
東京都練馬区にあるウエルシア薬局。夜8時を過ぎた頃、仕事帰りのお客さんが次々と店舗に入ってくる。特に調剤コーナーは処方箋を持ち込むお客さんで昼間以上に混雑している。
しかし、終電を過ぎた後、調剤コーナーに来たお客さんは2人のみ。10人以上はお客さんが来る状態にならないと薬剤師の人件費はペイしないという。
この状況を打破するため、ウエルシア薬局の在宅医療担当が、地域の在宅医療施設を回って営業活動を実施。しかし既に他の業者と取引がありなかなか受け入れてもらえなかった。
次にターゲットとしたのは、在宅患者の訪問診療に力を入れる病院。医師に直接アプローチしようというのだ。
医師の要望は薬の配達。しかし、配達するには、薬剤師が届けなくてはならない。夜は薬剤師が1人しかいないため、店を閉めなければならなくなってしまう。そこで考えた案が、地域の店舗の中の1店舗だけ薬剤師を深夜2名体制にし、医師からの要望に応じて、1名の医師が別の店舗にまわり薬を受け取り、患者の家に届けるというものである。
まだ具体的な要望があるわけではないが、今後ニーズとして出て来るものとしてどのようにオペレーションをしていくのか、これからが勝負どころである。
我々の暮らしの周りのサービスは、どんどん安くて便利になってきた。しかし、そのサービスを支える裏側では働く人達の負担が大きくなってきているのも事実である。単に豊かさを求める時代から、豊かさの裏側にある働き方にも意識を向ける時代へ。我々はいまその転換期に来ているのだと考えられる。