こんにちは。ひとりで.comです。
2017年4月10日放送の未来世紀ジパングは「池上彰の世界激変3時間スペシャル 世界を分断する”見えない壁” そのとき日本は?」と題して世界の様々な”壁”を池上彰氏が解説する。
前編は以下よりご覧ください。
世界を分断する”壁”(後編)
【目次】
中東の”壁の国”
1948年に建国されたイスラエルは日本の四国ほどの面積に人口858万人が住む。人工のおよそ75%がユダヤ人である。
2002年、イスラエルとパレスチナを隔てる全長700キロ、高さ8メートルに及ぶ分離壁を建設した。人口の75%がユダヤ人であるが、アラブ人だけが住む2つのパレスチナ自治区がある。それがガザ地区とヨルダン川西岸地区である。
ガザ地区は現在、イスラム原理主義組織「ハマス」が実効支配している。そのハマスは自爆テロなどを繰り返していた。このテロを防ぐためという名目で壁を作ってきた。
一方ヨルダン川西岸地区では、ガザ地区よりも緊張状態は低くある程度自由に行き来ができるようになっている。
そんなイスラエルの壁の建設に携わったのは、イスラエルの壁建設大手企業:マガル・セキュリティー・システムズである。イスラエルの壁の80%に関わっているという。この企業が建設しているのは、ただの頑丈な壁ではないという。
我々は、普通の壁を”バカな壁”と呼びます。
それに対し、マガル社が作る壁は「スマートフェンス」(=賢い壁)。柱の中に様々なテクノロジーが入っている。例えば、壁に触れるとセンサーが感知し司令室にそれが知らされるのだという。
マガル社は、空港や軍事施設、原子力発電所など世界85カ国で壁を手がけている。
そんなマガル社の最新技術は壁の監視ロボットである「ロボガード」である。フェンス伝いに設置されたこのロボガードは壁の近くに人影を検知するとすぐさまフェンスを伝って現場に急行し、注意を促す。
またレーザーを照射して不審物を特定し、すぐさま司令室にデータを転送する。しかも、充電池は自分自身で交換を行うという。このロボガードによって、24時間365日休まず監視する事ができる。
アメリカからもメキシコとの壁建設に当たって情報提供を求められている。
イスラエルの”世界最悪のホテル”
イスラエルのパレスチナにあるヨルダン川西岸地区に2017年3月に”世界最悪のホテル”が完成した。このホテルの売りは”世界最悪の景色”だという。ホテルの窓から見える景色は分離壁で、これを売りにしてしまったのである。
この”世界最悪のホテル”は「壁に囲まれたホテル」と言い、イギリス人芸術家バンクシー氏が開業したものである。バンクシー氏は、以前から、分離壁に絵を書くアーティストとして有名で、壁を批判する意味も込めて、このホテルを建てたのだという。
エルサレムへのアメリカ大使館の移転によって大問題が…
現在、イスラエルにおける首都はテルアビブだとされている。従って、各国の大使館も首都であるテルアビブにある。しかし、イスラエルは第3次中東戦争でエスサレムを占領することに成功し、エルサレムが本当の首都であると主張しているのである。従って首都に大使館を置いてくれ…と各国に呼びかけを行っているのである。
それに対して、トランプ大統領は、大使館をエルサレムに移転すると言い出したのである。大使館をエルサレムに移すとどういった事が起こるのだろうか…。
実はエルサレムには、3つの宗教の聖地とされている(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)。ユダヤ教の人が崇拝するのが「嘆きの壁」である。そしてその上に立つのがイスラム教の「岩のドーム」である。ここが特定の国の首都となると、混乱を招く可能性があるため、国連がエルサレムを”国際管理都市”に制定したのである。しかし、イスラエルはこの国連決議に反してエルサレムを占領している。
アメリカがエルサレムに大使館を移すということはすなわち、アメリカがイスラエルの不法占拠を国際決議に反して認めることになる、というわけである。
ただし、実はこの大使館の移転はトランプ大統領が決めたことではない。実は1995年にイスラエル大使館移転法案が成立した。アメリカのユダヤ人には、権力を持った人々が多くいて、ユダヤ教徒に損害を与えるような事があった際には、寄付金を対立候補にうつす…といったような脅しまで起きたりしていた。
従って、歴代の大統領は苦肉の策として、半年ごとに移転を延期する、という方策をとってここまでやり過ごしてきたのである。
しかし、トランプ大統領の娘イヴァンカ氏の婿であるジャレッド・クシュナー氏は敬虔なユダヤ教徒であり、エルサレムへの大使館移転をすすめており、イヴァンカ氏も父親が大統領になったら100%エルサレムに大使館を移転する、と宣言していた。その決断は2017年5月下旬に迫っている。果たして、トランプ大統領はどういった決断をするのだろうか。
フェイクニュースで世界の”壁”
嘘ニュース(フェイクニュース)の発信源と言われる東ヨーロッパのマケドニア。マケドニアはギリシャの北に位置する九州ほどの大きさの小国である。
マケドニアの山あいにあるヴェレスという街は人口およそ4万人。この地に暮らす人々の平均月収はおよそ3万3,000円という低所得の地域である。また25歳未満の若年失業率は47%という。
街の一角でフェイクニュースの鍵を握る若者とコンタクトすることができた。
その若者から案内される場所に行くと、若者がニュースを書き込んでいた…
スキャンダル!ヒラリー氏「イスラム国」から金銭授受!
彼は、アメリカ大統領選でも多くのフェイクニュースを作った人物だった。これをFacebookを使って拡散させるのだという。これが多く拡散されればされるほど、彼に広告収入が入るという仕組みである。
これで、アメリカ大統領選挙の時は月に200万以上を稼いだという。ここで関わっている若者は200人ほど。もともと健康食品サイトを運営していたが、アメリカ大統領選を契機にフェイクニュース作りが一気に広まったのだという。
他にもアメリカのスーパーボウルの話題で注目の選手が怪我をしたというフェイクニュースを作り、10分の制作時間で1万5,000アクセスほど集め、これで1本70万ほど稼いだという。
こうした動きをうけて、フランスのル・モンド紙は「フェイクニュース対策チーム」を結成し、フェイクニュースを発見し、フェイクであるという事を自社媒体上で掲載するという取り組みを始めた。
しかし、フェイクかどうかを判断するのに相当な時間と労力を必要とし、1週間で16件しかフェイクニュースを特定できないという課題も浮き上がっている。
フランスが見本にしたいと思う日本の国籍の”壁”
4月下旬から大統領選を迎えるフランス。国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は、”フランスのトランプ”とも呼ばれる極右派で反EU、反移民を掲げている。
一方、反ルペンで急上昇しているのがエマニュエル・マクロン候補である。マクロン氏は右派でも左派でもない層を取り込み、最近人気が急上昇しているのである。
しかし、中間層が暮らす街でインタビューすると思わぬ発言を聞くことができた。なぜか、この街の人にインタビューをすると、発言を拒否する人が多いが、よくよく聞いてみると
今回は国民戦線(ルペン派)に入れる。みな、人種差別主義者と思われるのが怖くてインタビューに応えないのではないか?
と言う。こうした”隠れルペン支持者”が多いのだという。フランスではいま、若者の移民が社会に溶け込めず街で暴動を起こすなど、社会問題になっているという。こうした移民からの暴動などを恐れて、本音を語らない市民が多いのである。
国民戦線のNo2であるブルーノ・ゴルニッシュ氏が未来世紀ジパングの取材を受けてくれた。ゴルニッシュ氏は…
フランスで生まれた子どもは自動的にフランスの国籍をもらえるが、その制度を辞めたい
と語る。フランスでは、フランスで生まれその後5年間居住するだけでフランス国籍の取得が可能となっている。移民にとって、これが非常に魅力的となっている。
そんなゴルニッシュ氏が参考にしているのが、なんと日本の国籍法だという。ゴルニッシュ氏は、フランスの国籍法をもっと日本のものに近づけたいのだと言う。
ヨーロッパの新たな”壁”
リトアニアの首都ビリニュス。歴史ある市街は世界遺産に指定されている。リトアニアは長年ロシアに支配されてきたのである。1991年にロシアからの独立を果たしたリトアニアだったが、すぐ西側にはカリーニングラードというロシアの飛び地がある。今年、この地に壁を作ろうという計画が持ち上がっているのだ。
なぜ、いま国境に壁が必要なのだろうか?
2014年、ロシアは隣国ウクライナ領クリミア半島に侵攻し併合させた。これがいわゆるクリミア危機である。こうしたロシアの動きを警戒し、壁を作ろうと言うのである。
リトアニアでは、2015年 7年ぶりに徴兵制が復活し、19歳から26歳の若者が年間約3,000人が徴兵されるようになった。ロシアの侵攻に備えて、市街戦の実践演習が日々行われているのである。
リトアニアはラトビア・エストニアと並んでバルト三国と呼ばれるが、旧ソ連体制のときはロシア領だった。すなわち、リトアニア内にもロシア系の住民がいるため「リトアニアにいるロシア系住民の保護」という口実でロシアの軍隊が入ってくるのではないかと恐れているのである。
“壁”を打ち破った日本人
リトアニアの第2の都市カウラス。ここには「杉原千畝」の名と「命のビザ」という文字が刻まれていた。
杉原千畝は77年前、カウナスにあった日本領事館で多くのユダヤ人難民を救うビザを発給した人物である。
1939年、リトアニア日本領事館に赴任した杉原千畝だが、当時のヨーロッパは風雲急を告げていた。当時はナチスドイツが台頭し、ユダヤ人の迫害が行われていた。ナチスの迫害を逃れるため大量のユダヤ人難民がリトアニアに流れ込み、日本領事館に集まった。
日本を経由して他国へ逃げるビザを発給して欲しいと懇願されたのである。当時リトアニアにも旧ソ連軍が侵攻しており、強制退去を迫られていたが、杉原千畝は
苦慮 煩悶のあげく 私はついに人道博愛精神第一という結論を得た。
として、独断でユダヤ難民たちに日本行のビザを発給する事を決めたのである。毎日夜中までビザを発給し続けたのである。その数は2,139通にものぼった。日本に逃れてきたユダヤ難民たちはその後、アメリカなど世界各地に散らばっていった。