こんにちは。ひとりで.comです。
2017年4月18日放送のガイアの夜明けは「激突!”トランプ”vs 日本企業」と題してトランプ大統領が行う政策に揺れるメキシコの日本の工場や、益子焼の現状を追った。
メキシコのレンタル工場がピンチ!! TPP撤廃で益子焼がピンチ!?
【目次】
トランプ大統領の影響でメキシコの”レンタル工場”がピンチ
2017年2月中旬、成田空港では、メキシコシティへの定期直行便が就航した。大きな狙いはビジネス客である。既にメキシコには1,000社以上の日本企業が進出しており、ビジネス流動が十分にあるという算段である。
メキシコ路線は上記の特徴があるため、これまでにない航空機の特徴を持っている。それは、機内の座席の半分がビジネスクラスで占めているのである。成田空港から約14時間でメキシコの首都メキシコシティと結ばれる。
そのメキシコシティから北西へ300キロにあるバヒオ地区には、フォルクスワーゲンやゼネラル・モーターズといった自動車産業が集積している。当然、デンソーや日野といった日本の自動車関連企業も進出している。
そんな工業団地に「貸します」と書かれた看板があった。これは、”レンタル工場”だと言う。このレンタル工場を建てたのは事業革新パートナーズの茄子川社長。このレンタル工場は、日本の中小企業をメキシコに誘致するために建てられたものである。
2015年の10月に工場を立ち上げ、それから1年ちょっと経過した状況で、もともとの計画では、去年の秋には全て埋まっている状態を目標にしていたが、現状は想定の半分にしか至っていない。この状況が続くと事業が立ちいかなくなるという。
この原因を作ったのが、アメリカのトランプ大統領である。メキシコがアメリカの雇用を奪っているとして、メキシコとの貿易をストップさせようとしていた事に起因する。人件費や土地代が安いメキシコには、工場の建設が途中でストップしてしまった工場も少なくない。そのひとつがフォードの工場である。
トランプ大統領の発言によって、工場建設をストップせざるを得なくなってしまったのである。
Thank you to Ford for scrapping a new plant in Mexico and creating 700 new jobs in the U.S. This is just the beginning – much more to follow
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2017年1月4日
「ありがとうフォード。メキシコの新工場を中止してくれたからアメリカに700の仕事が生み出された。これは始まりにすぎない」
フォードの建設現場で働いていたメキシコ人は…
撤退が決まった翌日に工事現場に行ったら既に閉鎖されていて入れなくなっていたんだ。”もういい”って言われて突然クビさ
あいつは人間の感情なんて全く持ち合わせていないやつだね
と怒りを露わにする。
レンタル工場に企業を誘致するために…
東京都中央区にある事業革新パートナーズの社員数およそ20名。社長の茄子川さんは、以前大手商社にて、タンカーの売買などを担当していた。その経験を元に2009年、中小企業の海外展開を支援する会社を設立した。
世界の自動車メーカーが集まるメキシコに進出したのは3年前の2014年。自力では工場建設が難しい中小企業のために”レンタル工場”を建設した。
折しも、アメリカでは大統領選がスタートしていた。当時はクリントン氏が優勢で”レンタル工場”に入居する企業も順調に増えていた。
しかし、新大統領に就任したのはトランプ氏。就任直後からメキシコに対して次々に厳しい政策を打ち出していた。すると”レンタル工場”は窮地に陥っていった。まだ、敷地の半分が埋まっておらず、このままだと閉鎖も余儀なくされてしまうと言う。
2017年3月、事業革新パートナーズの茄子川社長は、なんとか状況を打破しようと現地メキシコに向かい、情報収集に務めた。茄子川社長は、集めた情報の中である数字に注目していた。
カナダの会社がメキシコに作った金型工場が年間400件の受注を計画していた。その数は平均的な日本の金型工場の10倍以上の受注規模であり、巨大な市場がメキシコに眠っていることを意味している。トランプ大統領に恐れずにメキシコに出ていけばまだチャンスがありそうなのである。
茄子川さんは帰国後さっそく動き出す。神奈川県厚木市にある中堅の金型メーカーである株式会社明輝に向かった。
家電から自動車部品まで精密な金型部品に非常に定評がある金型メーカーである。メキシコは使用する金型のほとんどを輸入に頼っており、国内では3%ほどしか作ることができないという。従って、いま進出することによって大きなビジネスチャンスがある、と茄子川社長は説いた。
現地で直接取引先探しに奔走するエムエス製作所
愛知県清須市のエムエス製作所。1971年の創業で従業員およそ50名。自動車部品の中堅メーカーである。精密な加工を得意としている。
複雑な金型を組み合わせそこにゴムを流し込むことによって、複雑なゴム製品を作ることができる。自動車の車体とドアの間を塞ぐゴムなどに使われている。
これまでアジアを中心に積極的に海外への進出を行ってきた。2016年にメキシコにも工場を開設した。その場所があのレンタル工場だった。従業員は5名、そのうち2名はメキシコ人である。ここにはベテランの職人とともに1億円の投資をして、大型の設備を導入している。しかし、トランプ政権の影響により、追加投資をストップしてしまっている状態なのである。
更に追い打ちをかけるように、この5ヶ月間、収入はゼロだという。工場長は、工場にある設備の写真をもとに日系企業に向けたパンフレットを作り、スペイン語にも翻訳しアピールすることにした。
これをきっかけにアメリカの自動車部品メーカーであるCooper Standard社から問い合わせが入った。わざわざ日本企業を探して問い合わせてきたのだという。
これから本格的な商談のフェーズだが、工場長が行った努力が実を結ぶかもしれない。
トランプ大統領によるTPP撤回による関税
日本の商品を他国に輸出する際、自国の産業を守るため関税をかけている。例えば、工業製品をアメリカに輸出する場合、
ビデオカメラ | 2.1% |
カラーテレビ | 3.9% – 5.0% |
自転車 | 5.5% – 11% |
自動車 | 2.5% |
毛織物 | 2.7% – 25% |
上記のような関税がかかる。
しかし、アメリカや日本は、この関税の多くをTPPによって撤廃しようとしてきた。アジア太平洋地域の経済を活性化しようとするのが目的であった。
ところが、2017年1月に就任したトランプ大統領はTPP離脱の大統領令に署名をした。これによって、なくなるはずだった関税がこれまで通りとなってしまった。この事態にアメリカ進出を計画していた意外な産業が翻弄されている。
関税で価格に悩む益子焼
栃木県益子町で有名なのが益子焼。益子焼は江戸時代から続く伝統工芸でごつごつした土の風合いを活かした素朴な印象が特徴的で、最近では作家による独創的なデザインも誕生し、日々変化を遂げている。
しかし、海外の安い食器に押され、約20年で売上高は3分の1以下に落ち込んでいる。
近年の世界的な和食ブームに乗っかって、アメリカへの進出に活路を見出そうとしていた。2017年2月にはニューヨークで初の商談会を実施した。関税がなくなるTPPは追い風となる想定だったが、トランプ大統領は早々に離脱を決めたのである。
町内にある、オフィスましこのね。去年の5月に設立したここが、益子焼の輸出の窓口である。販売サイトを5つの言語に対応するなど準備を進めている。ここでは町内の益子焼をまとめて海外に輸出する事を計画しているが、JETROから来た情報によると最大28%の関税がかかる可能性があるという。
関税率が28%だったとすると、アメリカでの販売価格は日本の2.5倍ほどになる計算である。
岩下製陶は150年の歴史を持つ老舗の益子焼メーカー。6代目の岩下氏はアメリカ向けに益子焼のコーヒーカップの新商品を開発していた。販売価格は1脚5,000円。作家性の高い商品は価格が高くても売れる可能性はあるが、そうはいかない商品もある。
益子焼窯元共販センターでは、およそ100社から仕入れた益子焼が販売されている。その数は10万点にも及ぶ。
この益子焼窯元共販センターは1966年に23の窯元が共同で設立した。益子焼の発展を担ってきたが、この20年で売上は激減している。リストラを含めたコスト削減によって、なんとか維持できているというのが現状だという。
この店で扱うのは、窯ものと呼ばれる大量生産の益子焼である。飲食店での食器や家庭での普段使いを想定した手頃な価格の商品が主に販売されている。手頃な益子焼が関税によって、手が出しづらい高級品の価格帯になってしまうのです。
関税率は最小で0.7%、最大で28%となり、かつアメリカの税関の判断になるため、輸出してみないと、どのくらいの関税率となるかは判断ができないのだという。
この益子焼窯元共販センターの代表である鍛冶浦さんは、傍らで自らも鍛治浦製陶所という窯元を家族で営んでいる。ここでは1年間でおよそ5万個の益子焼を製造しその半分近くを益子焼窯元共販センターに納めている。
鍛冶浦さんは、鍛治浦製陶所にてアメリカ向けの益子焼の試作品を開発していた。通常は、軽さを出すため薄く作っていたが、アメリカの強力な食洗機にも対応できるように改良を行っていた。しかし、どうしてもアメリカ向けの益子焼はこれまでのものよりも手間がかかってしまうため、価格が高くなってしまう。
アメリカでの販売価格を少しでも安くするために、鍛冶浦さんはある手立てを考えていた。窯元での利幅をこれ以上下げることは難しいため、問屋の役割を果たしている販売店の手数料を少し下げ、その分数を出すことによって利益を確保するという事で腹を括ったのである。もはやこれしか方法はなかった。
トランプ大統領のTPP離脱に翻弄される益子町の方々は、これからも一丸となって挑戦を続けていく覚悟をしている。
日本経済がアメリカに深く依存している。トランプショックがその事実を改めて我々に突きつけた。グローバル化が進んだ現在は海外の動き一つである日突然、我々の生活に大きな影響が出てくる時代である。その時日本企業はどう動くのか…新たな問題を背負った人々の挑戦をこれからも伝えていきたい。