こんにちは。ひとりで.comです。
2017年8月14日放送のガイアの夜明けは「”ふるさと職人”の逆襲」と題して、兵庫県西脇市の播州織、福井県鯖江市の越前漆器に新風を巻き起こす若者たちを特集する。
今「伝統の技」が活躍の場を失っている。一方で、それらに魅せられ移住する若者達が。兵庫県・西脇市では、その”若きヨソモノ”が熟練の職人とタッグ。
「播州織」の名を広めるべく”織物の限界”に挑むことに。福井県・鯖江市では、漆器の伝統技術をアピールすべく”究極の弁当箱”作りに挑む。その意外な仕掛けとは?
時にぶつかりながらも力を合わせる年の差40歳、異色チーム…「産地復活」を賭けた闘いを追う。
若き才能と職人の技術の融合で地場産業を復活させる
播州織の技術で軽いストールづくり
兵庫県西脇市にある三角屋根の工場。この工場で扱われているのが先染織物と呼ばれる糸から染めて作り上げる生地である。染料は100種類以上。日々これを組み合わせて新たな色を作成している。扱う色の種類は15万色以上にもなる。
ここは先染綿織物で日本一の生産量を誇る。これは播州織と呼ばれ、200年以上の歴史を持つ。いま播州織は産地存亡の危機に瀕している。
播州織は聞いたことがない人が多いと思うが、実は気づかぬうちに身に着けている人も多いかもしれない。というのも、バーバリーやブルックスブラザーズといった海外のブランドでもこの播州織が採用されていた。他にもトミーヒルフィガー、アルマーニ、ダンヒル、ギャップ、ラルフローレン、ヴァレンティノにも使われていた。
80年代は生産した8割が海外に輸出されていた。ところが円高などの影響で生産拠点は全盛期の4分の1に落ちてしまった。
文化服装学院は94年の歴史を誇る名門である。兵庫県西脇市は、学院卒業後の卒業生の移住を促進しようとこの文化服装学院で説明会などを実施している。
兵庫県西脇市にある株式会社播は従業員25名であるが、昨年初めて東京から1人の新入社員を迎えた。文化服装学院の出身であり、株式会社播 での初めてのデザイナーである。
西脇市では2年前からデザイナーを育成するプログラムをスタートさせている。デザイナーを目指す若者が播州織の企業に就職した場合、1ヶ月最大15万円(3年間)を企業に支援している。有名ブランドを手がけてきた播州織だが、その名前が表にでることはなかった。
そこで、播州織のオリジナル商品を開発しようと若者デザイナーを集め、播州織のブランド認知を高めていきたいと考えているのである。
株式会社播の副社長は、先の新入社員デザイナーの鬼塚さんに新しい商品であるストールを任せようとしていた。そこで鬼塚さんは
100単を使いたい
と提案。100単とは100番単糸と呼ばれる極細の糸の事を指す。軽くて肌触りが良いが、細くて切れやすく扱いにくいのが特徴である。
100単の糸は染めると更に切れやすくなるため、播州織で使われることはこれまでほとんどなかった。そこを敢えて使うことで、アピールポイントにしようとしていた。
そもそも、播州織は伝統的に大量生産が基本の商品のため、いかに簡単に作るか、というのが今までの常識だった。しかし、鬼塚さんの発想は今までの常識をくつがえすものだった。
播州織は縦糸と横糸をクロスさせて作る織り方のためそれぞれバラバラに作る必要がある。さらに、今回デザインした柄も奇抜な柄だった。
播州織の定番は、チェックやストライプなど同じデザインを繰り返す柄であることが多いが、今回鬼塚さんが提案した柄はグラデーション柄。
グラデーションは徐々に色の間隔を狭めて作るため、1本でも色を間違えてしまうとキレイな色がでなくなってしまう。それだけ、繊細な作業を必要とするのである。今回のデザインでは縦糸を6,900本、色の間違いがないように機械に設置していく必要がある。
次の工程は機織り。機織りとは縦糸に対して横糸を折り込み生地を完成させていく作業である。鬼塚さんの構想するストールの横糸は6,342本。縦糸と異なり、色は不規則に並んでいる。
試作品が完成したが、生地のできあがりの重さに納得がいかない鬼塚さん。生地を軽くするには横糸の数を減らすしかない。横糸を減らすと更に職人に負担をかけることになる。
機織り職人は、東京から播州織を作りたくて出てきた若者に応えてあげたい。そういう想いで新しい試作品を20個も作り上げていた。その中に満足のいく試作品があった。
以前重いと感じた試作品は65グラム、今回の試作品は59グラムとたった6グラムしか違わないが、実際にストールを身につけるとその違いがわかるという。
できたストールをデパートの催事で1週間限定で販売することができた。1週間で62本を販売することができた。
鯖江越前漆器の技術でデザイン性あふれる弁当箱
福井県鯖江市。鯖江市と言えば、一番に思い浮かぶのがメガネだろう。国産メガネフレームの8割以上を鯖江市で生産している。しかし、鯖江は昔からメガネ以外のものづくりも盛んである。
例えば、越前漆器は1,500年以上の歴史があるという。現在では、外食産業用の器作りも行っており、業務用漆器の約8割を鯖江で製造している。
更に繊維産業も盛んで、その技術を活かしてポリエステルで作ったガムテープや雑草の繁殖を防ぐ防草シートを製造している。
2016年10月、RENEWという鯖江の伝統工芸を扱う体験型マーケットイベントが実施され、およそ2,000人が全国各地から集まった。これを仕掛けたのは新山直宏さん(31歳)。そこにはある想いがあったのだという。
鯖江伝統の越前漆器がデパートなどでワゴンセールとして煩雑に扱われていた。それを見て、職人が丁寧に作った商品が粗雑に扱われていることに悔しくなった。
という。
越前漆器は輪島塗などに比べて認知度も低くブランド力がないのが悩みだった。その魅力を伝えるにはどうすればよいか…新たな取り組みが求められていた。
そこで、新山直宏さんが立ち上げたのがデザイン会社。その名はTSUGI(ツギ)。2015年に設立し伝統工芸の魅力を次の世代に伝えるという意味が込められている。TSUGIでは、イベントの企画やパンフレットづくり、越前漆器の技術を活かしたアクセサリーの製造も手がけている。
今では50社以上の取引先ができているという。
新山さんのところに、エキュート品川からある依頼が入った。その依頼とは、漆器の魅力を伝える商品の開発である。そこで新山さんが注目したのは、越前漆器で重箱を作る技術である。その技術を使ってお弁当箱を作ろうというのである。
お弁当作りに協力を仰いだのが、マルタカ工芸の高野さん。伊勢島サミットの記念品も手掛けた高野さんは経験と勘には絶対の自信があるという。
2週間後、試作品が完成した。それが伝えたくなる弁当箱である。
敢えて漆は塗らず木の風合いを活かしたデザインにしている。さらに別の弁当箱として、収まりのよい弁当箱である。
一番の拘りは、弁当箱の底の部分。一般的な弁当箱は、バンドをつけるとガタついてしまうが、今回のものは底にわずかなスキマを作り、ガタツキをおさえているのである。この商品には越前タンス職人が協力してくれた。
精密な図面と職人技の融合によって、機能性を兼ね備えたお弁当箱が完成した。
しかし、妥協せずに開発を行ったため、箱1つで14,000円と高額になってしまった。
エキュート品川で実際に販売する日がやってきた…客の反応はいかに…。はじめは通り過ぎていく人が多かったが、実際にどこにこだわりがあるのか丁寧に説明していくと、店頭に並べた10個のうち3つが売れた。
いま歴史ある地場産業の多くが苦戦を強いられている。そこに飛び込んだ若きよそものたちとベテラン職人。両者の間には大きな価値観の違いがある。しかしそれゆえ、力を合わせればかつてない化学反応を起こし新たなものを生み出す可能性を秘めている。それこそが地場産業を復活させる起爆剤になるのではないだろうか。