こんにちは。ひとりで.comです。
2018年5月22日放送のガイアの夜明けは「もう一つの働き方改革」と題して厚労省管轄の就労継続支援A型事業所の実態と、自ら重度障がい者で寝たきり社長の佐藤仙務さんのあらたなビジネスを特集する。
もし自分が病気やけがなどで重い障がいを負った時、その後、働き続けることはできるのか?そして成果を上げて、やりがいを見いだしていけるか?健常者だけの目線ではない、ハンデキャップを負った人々と共に進める「働き方」を考える。
今年4月から国は、社員50人以上の「一般企業」に対し、障がい者の法定雇用率を2.0%から、2.2%に引き上げた。障がいのある人も「企業」で働ける環境を整えるよう、その門戸を開く方針を打ち出している。
企業にとって障がい者を雇用し、健常者と共に働ける職場作りを進めるにはどうしたら良いのか?試行錯誤が始まっている。 その一方で、就労を支援する「事業所」で障がい者が突然解雇され、放り出されている事態が次々に起きていた。新たな「ブラック労働」の実態を追跡。
「もう一つの働き方改革」を問う。
就労継続支援A型の事業所とは?
東京渋谷区庁舎では、お昼時になると廊下の一角が大変な賑わいになる。そこで販売されているのが、多彩な品ぞろえのパンやクッキーなどである。価格は150円から300円ほどで、素朴な味だと評判である。
この商品は、渋谷区内にホープ就労支援センターという場所で作られている。この施設では、重度障がい者の就労支援を行っている施設で、現在24名の障がい者が就労している。1日600個以上のパンやスイーツなどを製造販売しているのである。
賃金は1日平均4,000円〜5,000円に設定されている。
しかし、こうした事業所が全てうまくいっているわけではない。
実は、2017年からこうした障がい者が働く事業所が相次いで自己破産に陥っているのだという。2017年11月には、広島県の就労施設が経営破綻し、112人にも及ぶ障がい者が突然解雇されてしまったのだという。
就労継続支援A型…聞き慣れない言葉だが、これは重度の障がいをもつ、一般的な企業で働くことが困難な方々に働く場を提供する事業を行う制度で、企業と雇用契約を結ぶことで、月平均6万円の給与を得ることができる。
さらに最終的には一般的な企業につとめられるようにスキルアプ支援を受けることができるようになっている。
一方、就労継続支援A型の事業所は、障がい者を雇用すると、1人あたり1日約5千円を助成金として得ることができる。つまり、雇えば雇うほど助成金を多く得ることができる。
この制度を利用すると企業側は、
1日5,000円×20営業日=100,000円
を助成金として得ることができ、それに対して、
60,000円
が人件費として出ていくため、差し引いた40,000円を企業の利益とすることができるのである。
こうした制度ができたことによって、就労継続支援A型の事業所は年々増え続けており、2011年に980事業所だったのが、2017年には3,768事業所と4倍近くまで膨らんでいる。
就労継続支援A型の実体とは?
広島県第二の都市である福山市。ここにあった就労継続支援A型事業所「しあわせの庭」が2017年11月に経営破綻した。パンやポップコーンの製造販売をしていた障がい者112人が突然解雇されたのである。
ここで就業していた人は、破綻直前の2ヶ月の給料が未払いのままになっているのだという。この「しあわせの庭」の事業所内での作業は、就労支援とはほど遠い実態だったと指摘する人もいる。
この工場では、大手業者が製造した半製品のパンを仕入れ、それを温めて販売していただけだという。そんな工場の中でも過剰な人数が就労していたという。
しかし、これだけの障がい者を就労しているということで、国から助成金を1ヶ月約1,000万ほど支給されていたという。障がい者はこの助成金を得るために集められたのだろうか…。
結局、この”しあわせの庭”は2億8,000万円の負債を抱えて経営破綻し、経営責任者の山下昌明さんは雲隠れしたままだという。
2018年3月に開かれた債権者集会で、経営責任者の山下昌明さんが現れたが、何も話さず、書面で回答すると言って去っていってしまった。
実は、この経営破綻には大きな引き金があったという。それが、厚労省による省令である。
厚労省は
助成金を賃金に回してはいけない
と発布し、助成金目当ての事業所に対して手を打ったのである。2017年4月以降、国からの助成金を賃金に当てることができなくなり、賃金は稼いだ収入から払わなければならなくなったのである。
すると、経営に行き詰まる事業所が急増し、50人以上の障がい者が突然解雇される事業所が1年間で5件も出てきたのである。
隣の岡山県でも、同じように経営破綻した運営会社が見つかった。事業所の名前は株式会社フィル。この会社は6億円もの負債を抱えて経営破綻し、169人もの障がい者が突如解雇されることになったのだという。
しかし、この会社が運営するパン屋さん、先に登場したしあわせの庭が行っていたパン屋さんと看板のデザインが酷似していたのである。
調査を進めると、しあわせの庭の責任者だった山下昌明さんと株式会社フィルの経営者岡本健治さんは過去、上司部下の関係だったのだという。
全国にある就労継続支援A型の事業所の7割が経営計画の改善が必要だとされるデータもあるというが、厚生労働省は、就労継続支援A型の事業所が破綻いているという状況を把握していないと回答した。
重度障がい者の働き方改革
こうした状況の中、ひとりの若者が新しい働き方に挑戦していた。それが佐藤仙務さん(26歳)である。10万人に1人と言われる難病、脊髄性筋萎縮症と呼ばれる病気に侵され、自分の意思で動かせるのは、親指1センチのみだという。
それでも、同じく重度障がいの知り合いと株式会社仙拓という会社を立ち上げ、数多くの表彰を受賞した。その後、テレビ電話で受講できる経営管理研究科に入学し、来年にはMBAを取得する予定となっている。
さらに、2018年からは名古屋市の女子大で非常勤講師としてITビジネスの講義を始めた。
自らを”寝たきり社長”と言い、その中でもハンディキャップを克服するための新しい働き方を提案している。
佐藤仙務さんが自分の意志で動かせるんは親指1センチのみ。自宅で母親がPCのセッティングを行うと、重度障がい者用の特殊な入力ソフト(意思伝達装置)「miyasuku」を使い、目でカーソルの位置を合わせ、それに合わせて親指を動かし、うちたい文字を確定させるという方式で、メールや資料などを作っていくのである。
愛知県で生まれた佐藤仙務さんは、1歳のときに脊髄性筋萎縮症だとわかった。余命は5歳から10歳と言われていたが、2人の健常者の兄と平等に育てたという。
兄たちと同じように就職できると思っていたが、それができないという現状を突きつけられたのである。そこで自ら会社を立ち上げることにしたのだという。
共同で株式会社仙拓を創業した松元拓也さんは、同じ愛知県内に住んでいるが、松元さんはホームページや名刺をPCでデザインする仕事を自宅で行っている。ITの技術を駆使すれば、仕事にはほとんど支障ないという。
松元さんがデザインする名刺やホームページは、そのデザイン性の評判が高く、年間およそ300件の仕事を請け負っているのだという。創業7年で社員も9人にまで成長したという。
高齢者ケアと障がい者の就労支援ビジネス
そんな佐藤仙務さんは、さらに新しい事業を立ち上げようと準備を進めていた。それが、高齢者と障がい者がテレビ電話を活用して話をすることで、高齢者に元気になってもらおうというサービスである。
人と話すことは認知症の予防にもなることがわかっており、単に寿命をのばすのではなく、健康寿命をのばすという意味でも、重要なのだという。障がい者の就労支援と高齢者のケア、2つの社会問題を解決する画期的なサービスである。
高齢者のケアを行うために、障がい者の方々には、カウンセラーの資格を取得してもらい、専門的なカウンセリングを行うことができるようにしている。
しかし、このビジネスで高齢者から費用を取るのは難しい。そうすると、どこを財源としてビジネスとして成り立たせるか…そこに苦労していた。
そこで、訪れたのが地元の市役所だった。市長自らが出迎えてくれ、直接どのようなサービスなのかの提案を聞いてくれたのである。この事業に対して、助成金の給付を検討してくれるようになったという。
突然の怪我や病気で障がいを抱え、仕事を続けることができなくなってしまう。誰しもその可能性は否定できない。働く意欲を持つ全ての人々がチャンスを持てる世界、寝たきりであっても仕事を続ける佐藤仙務さんの活動には現状を変えるさまざまなヒントがあった。
障がい者、健常者が分け隔てなく働き、新しい価値観を生み出していけるか、働き方改革の本質とはそんなところにあるのかもしれません。