こんにちは。ひとりで.comです。
2018年7月18日放送の未来世紀ジパングは「世界遺産に問題噴出! ~表も裏もすべて見せます~」と題して
6月下旬、日本に新しい”世界遺産”が誕生することがユネスコ(国連教育科学文化機関)で決定された。しかし、いま、国内外で”世界遺産”をめぐる問題が噴出している。「世界遺産が増えすぎ」ではないか?そして「世界遺産は迷惑である」という地域も現れた。一方、ユネスコをめぐる世界各国の「ロビー活動」は激化し、さらに地域紛争を引き起こしかねない”政治利用”も問題となっている。
番組では”世界遺産の保護”と”都市開発”をめぐって揺れるオーストリア・ウィーンを取材。さらに”不可解”とも言われる世界遺産登録の実態に迫るためパリのユネスコ本部を直撃し、ロビー活動の実態に迫る。また、ユネスコ改革と「危機遺産」の保護に挑戦した、ある日本人の知られざる感動秘話をお伝えする。
世界遺産に問題噴出! ~表も裏もすべて見せます~
【目次】
新たな日本の世界遺産:隠れキリシタン遺産
長崎県長崎市には、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が先日、ユネスコ世界文化遺産に指定された。いわゆる隠れキリススタンの里で、彼らはオラショという祈りを捧げる。
マーティン・スコセッシ監督が描いた映画「沈黙」は遠藤周作の小説を映画化したもので、隠れキリシタンがモデルとなっている。
しかし、世界遺産に登録されるまでは長い道のりがあった。その紹介資料は1,000ページを有に超え、登録までにかかった時間は11年にも及んだという。
世界遺産は特別な魅力を秘めており、同じく長崎県にある軍艦島も2015年に世界文化遺産に登録されたもののひとつである。周囲をコンクリートでおおわれた明治日本の産業革命遺産として登録されている。
軍艦島への上陸ツアーは1人4,000円ほどで年間10万〜15万人ほどが訪れる人気のツアーとなっている。石炭の採掘で明治以降の日本の発展を支えたと言われている。ピーク時には5,000人が軍艦島で働いていたという。
世界遺産は莫大な経済効果を生み、ツアー会社はお土産品などをこぞって開発している。そんな世界遺産の恩恵は周辺地域にも広がっており、池島という軍艦島から1時間ほどの島では昭和30年代に建てられた高層アパートが今でも残っており、その様子はまさに軍艦島の様相となっている。
池島では、軍艦島と異なり、こうした高層アパートの廃墟を今でも間近で見ることができるのである。この島も軍艦島と同じく炭鉱の島だったのである。軍艦島とセットの探検ツアーが組まれるようになり、多くの観光客が訪れるようになったのである。
世界遺産の抹消危機?景観を選ぶか、利便性を選ぶか
そもそも世界遺産のはじまりは何だったのか?
アブシンベル神殿というエジプトの神殿周辺に1960年代にダムの建設計画が持ち上がった。ダムができると、神殿が水没してしまうため、ユネスコが呼びかけ、人類共通の遺産を保全しようということで世界遺産という制度がスタートした、というのである。
現在では、1,000個を越える世界遺産があり、日本でも20数個の世界遺産を有している。
もともとは人類共通の遺産保全を目的としていたが、少しその目的が観光によってしまっているのではないかとも言われている。
そんな中、世界遺産はいらない!と言い始める国も出てきているのである。そのひとつがオーストリアである。
オーストリアの首都ウィーンは2001年、街の中心部全体が「ウィーン歴史地区」として世界文化遺産に登録された。そのウィーンの町並みが都市開発の危機にさらされているのである。
世界遺産の規約書には、ウィーンは歴史的な景観を壊すたてものを作らない、と約束している。景観を壊すたてものを作った場合、世界遺産を取り消される可能性があるという。
そこに高さ66メートルの高層ビルを建てる予定なのだという。
この問題に対して、ウィーンの市の担当者は、
建物は古くなっているため新しくするのは問題ない。高層ビルがひとつたったぐらいでは景観は損なわれない
と意外にも前向きな発言だった。しかし、その発言の裏には
イギリスのEU離脱の影響で多くの企業がイギリスからの移転先を探している。競争相手が数多くいる中で、その場所を確保する必要がある
としている。
さらに韓国で2014年に世界文化遺産に登録された南漢山城。南漢山城は17世紀、清の侵攻を食い止めるために作られた李氏朝鮮の山城である。有事の際は、ここに籠城したという。
最大の特徴は長さ12キロにも及ぶ大城壁であり、映画のロケ地としても使われ、それ以降観光客が多く押し寄せるようになった場所でもある。
しかし、この場所でいま問題が起こっていた。
それが公園内の酒盛りである。週末になると韓国人観光客が訪れ、マッコリで酒盛りをしているのである。もちろん、公園内での飲酒は禁止しているのだが、酒盛りを行う人が後を絶たないのだという。
そのせいもあって、至るところでゴミが散らかってしまっているのである。さらに、廃棄のタイヤなども放置されている。実は南漢山城は昔から企業や市民が廃棄物を不法投棄してきた場所なのである。
地元自治体は
来年から予算をつけて対策する予定だった…
と語っている。
世界遺産決定までの不透明な決定ルート
世界遺産決定までの流れは以下のようになっている。
- 国内での選定
- 各国からの推薦
- イコモスの審査(登録・情報照会・登録延期・不登録)
- 世界遺産委員会
このイコモスの審査が登録の鍵となるのである。しかし、イコモスの審査とは関係ない不可解な審査が行われているのではないかという疑いがかかっているのである。
このイコモスの本拠地はフランスにある。ここでは建築や考古学などの専門家が世界遺産に登録すべきかどうかの専門的な調査が行われているのである。
しかし、イコモスは専門家集団としての疑義を問われる立場に置かれている。2017年、21件の審査を行ったイコモスはそのうち9件を「ふさわしくない」と評価した。しかし、21件すべてが世界遺産に登録されてしまったのである。
そこで、世界遺産を管轄しているユネスコに取材を試みると
私たちは事務的に発表しているだけで、世界遺産を決定しているのは世界遺産委員会だ
と言う。
世界遺産委員会は、世界遺産条約を結ぶ193カ国から選出される組織で、人気は6年で21カ国がそのメンバーとなっている。
その世界遺産委員会に取材をしてみると、ブルキナファソが取材に応じてくれた。
ブルキナファソのアラン・フランシス全権大使は
イコモスはアドバイザーに過ぎない。自分たちも知識があるし、専門家もいる。世界遺産を決めるのは私達である
という。
そして、
世界遺産に登録されたい国はみんな猛アピールをしてくる。イコモスに却下された場合は特にである。現場まで招待されることも少なくない。
と、ロビー活動が頻繁に行われていることを話してくれた。
すなわち、ODAなどを通して、資金援助などあらゆる手段の取引のようなものも行われているそうなのである。
不透明なお金の流れが見られるユネスコ
お金の使い方が最も不透明なのがユネスコ
だと言う調査結果が出た。これは一体どういうことなのだろうか?
とあるジャーナリストは
ユネスコは皆が考えている以上に汚職だらけだ
という。
このジャーナリストは長年、ユネスコの元事務局長であるイリナ・ボコバ氏を追いかけており、イリナ・ボコバ氏の夫の口座にアゼルバイジャンの会社から5,000万円にも及ぶお金が振り込まれていたという。そしてその会社は実態のないペーパーカンパニーだったのだという。
しかし、汚職の決定的な証拠はまだないのだという。
世界文化遺産と通して紛争を食い止めた日本人:松浦晃一郎
アフガニスタンのバーミヤンに2体のバーミヤン仏像がある。高さ55メートルを越えるこの仏像は仏教美術の傑作と言われてきた。しかし、2001年にイスラム原理主義組織のタリバンがこの大仏を爆破してしまった。
これを
文化に対する犯罪である
と反発する日本人がいた。
それが元ユネスコ事務局長の松浦晃一郎である。
1999年から10年間にわたってユネスコに所属し、数々の文化遺跡を守ってきた人物である。
そんな彼の功績もあり、爆破から2年後の2003年にバーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群が世界文化遺産に登録された。
さらにボスニア・ヘルツェゴビナのモスタル旧市街の古墳地区も彼によって世界遺産に登録された地域のひとつである。その象徴とも言えるのが、スタリ・モストという橋である。橋桁を持たない橋で高い建築技術が必要とされ、16世紀のオスマン帝国時代に作られたものである。
このスタリ・モスト、実は紛争によって一度は粉砕された橋なのである。1992年〜1995年、民族の違いによる争いであるボスニア紛争が勃発し、死者20万人、難民200万人を出したと言われている。そして、スタリ・モストも戦略的に邪魔だという理由によってクロアチア軍によって破壊されてしまったのである。
そして2004年、松浦晃一郎さんの働きかけによって、スタリ・モストの再建に成功し、ユネスコの世界文化遺産に登録されたのである。