こんにちは。ひとりで.comです。
2017年8月21日放送の未来世紀ジパングは「池上彰が徹底解説!アジアに広がる「イスラム国」〜そのとき日本は〜」と題してフィリピンで今なお続くミンダナオ島でのマウテグループとの交戦、アジアに広がるイスラム国の驚異を特集する。
イスラム過激派と政府軍の戦闘が続くフィリピン・ミンダナオ島をジパング取材班が緊急取材。”全島が戒厳令下”という状況の中、”戦闘地域”に迫る。
なぜいま、中東のシリアやイラクから離れたアジアの国に、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の脅威が広がっているのか?
“剛腕”で知られるドゥテルテ大統領が、なぜここまで苦戦しているのか?フィリピンと日本との関係は深く、この先、ニッポンに何が起きるのか?日本はかつて、イスラム過激派とフィリピン政府を仲介し、「和平」実現に貢献した経験があるのだが・・・池上彰が徹底解説する!
イスラム国が崩壊しても…
【目次】
イスラム国がアジア・フィリピンにも拡大
2017年8月17日、スペインのバルセロナで100人以上が死傷するテロが発生した。このテロに関してイスラム過激派組織、イスラム国が犯行声明を出している。
しかし、日本にほど近いフィリピンでもいまイスラム国の驚異が及んでいる。2017年5月にイスラム国に忠誠を誓ったある組織がフィリピン政府軍との交戦をいまも続けている。
昨年フィリピンで就任したドゥテルテ大統領は、国内における麻薬の取り締まりを強化し、麻薬撲滅戦争を開始、既に死者は8,000人を超えていると言われている。
そのドゥテルテ大統領がもうひとつ手を焼いているのが、”自称”イスラム国によるミンダナオ島の街の占拠である。ドゥテルテ大統領は、この地域に戒厳令すなわち、軍隊に全ての統治を任せる非常事態宣言を出した。
2014年6月にイラクからシリアにまたがる地域において国家樹立宣言をしたイスラム国。最高指導者であるバグダディは2020年に世界をイスラム化すると宣言した。2015年1月にイスラム国が支配していた地域はイギリスほどの領土があったが、国際社会による掃討作戦により、かなり地域も限定的となった。
イスラム国の撲滅もわずかではないかと言われていたが、それがアジアにも飛び火してきているのである。
フィリピンには約1,500社の日本企業が進出しており、在留日本人は約1万7,000人、観光で訪れる日本人は2016年には約53万人にものぼっている。
フィリピンでいったい何が起きているのか?
いまなお戦闘が繰り広げられているフィリピンのミンダナオ島。2017年5月、20万人ほどが暮らすマラウィという街で戦闘は始まった。
イスラム国に忠誠を誓う地元の武装勢力とフィリピン軍が銃撃戦となり多数の死者が出た。その後武装勢力は人質をとり、マラウィ中心部を占拠した。
ドゥテルテ大統領は非常事態と判断しすぐに戒厳令を出した。
現在、約40万人の人々が避難生活を余儀なくされている。
フィリピンで交戦するマウテグループとは?
マラウィを占拠する過激派組織はいったいどのようなグループなのだろうか。その過激派組織はマウテグループと呼ばれる。そのリーダーはアブドゥラ・マウテ。もともと麻薬などを取り扱うグループだったが、イスラム国に忠誠を誓い国家樹立を目指し街を占拠した。
フィリピンでは、多数派であるキリスト教を目の敵にし、次々を教会を破壊している。
なぜそもそもフィリピンにイスラム教徒が広まったのかを紐解くためにイスラム教の起源を振り返ってみる。
イスラム教は7世紀頃、中東のメッカでムハンマドが「神の声を聞いた」と言って、イスラム教がはじまった。そして、イスラム教が世界に広まっていく過程で、貿易商人たちが貿易を行いながらイスラム教を伝え、インド、インドネシアと伝わっていった。フィリピンも15世紀にはスールー王国というイスラム教の国が建国された。この時点では、フィリピンはイスラム教国だったのである。
しかし、16世紀にはいり、この地域はスペインの植民地となり、大勢のキリスト教徒が移り住み、キリスト教徒に改宗させたのである。
したがって、現在フィリピンの人口の8割がキリスト教徒である。ただし、ミンダナオ島では、住民の2割がイスラム教徒であり、他の地域に比べて多い。もとからいたイスラム教徒側からするとあとからきたキリスト教徒に乗っ取られた…という想いがあり、以前から内戦が何度も起きていた。
イスラム国と関係が深いとされるイスラム過激派組織”アブサヤフ”のリーダー、ハピロン容疑者は、アメリカ人を誘拐した容疑で5億円の懸賞をかけられた人物を逮捕しようとドゥテルテ大統領は掃討作戦を展開。このアブサヤフを警護していたグループがマウテグループでだったのである。
なぜイスラム国との戦闘が長期化しているのか?
強硬派であるドゥテルテ大統領が、なぜこのマウテグループの鎮圧に時間がかかっているのか、そこにはいくつかの要因がある。
まずひとつめは人質がとられているということである。強行突入すれば、このマウテグループを制圧することもできるであろうが、人質がいるとなると話は別である。この人質をタテにされてしまっているがゆえに鎮圧に時間がかかっているのである。
そしてふたつめは、立てこもっている場所である。マウテグループは現在、モスクに立てこもっているため、下手に爆撃できない状況にある。
というのも、現在は政府軍 vs 一部の過激派組織という構図になっているが、もし政府軍がモスクに攻撃をしたとなると、イスラム教の神聖なる建物に攻撃した、ということになりかねない。状況によっては、政府軍 vs イスラム教という構図になってしまうと、さらに大きくなってしまうリスクがあるのである。
そしてみっつめはアメリカ軍の支援である。アメリカ軍は、この鎮圧活動に協力すると言ってきたのであるがドゥテルテ大統領はそれを拒否したのである。もともとアメリカの植民地だったフィリピンの地で、アメリカに頼らず制圧することが今後国際社会での地位をあげるのに重要だと判断したためである。
当初はマウテグループとの戦闘は2週間で終わらせるとしていたドゥテルテ大統領だが、結果的に現在3ヶ月以上が経っており、民間人を含む死者が700人にものぼってしまった。戒厳令も年末まで延長せざるを得なくなってしまっているのである。
アジアに広がるイスラム国のテロ活動
昨今、上記フィリピンでの争いの他にもイスラム国によるアジアでのテロ活動が激化しつつある。
例えば、2016年7月にはバングラデシュのダッカでレストラン人質テロが勃発。
2016年1月と2017年5月にはインドネシアのジャカルタで銃乱射自爆テロも起きている。2016年9月にはフィリピンのダバオで爆破テロが起きるなど、アジアでのイスラム国によるテロ活動が激化している。
また、未遂に終わったが、2016年8月にはシンガポールのマリーナベイサンズを爆破する計画もあったという。
”奇跡の和平”日本の功績
フィリピンのミンダナオ島でNGO「ミンダナオ子ども図書館」を運営する宮木 梓さん。このNGOは内戦で親を失った子どもたちなどに向けて移動図書館や孤児院の運営を10年以上行っている。
ミンダナオ島で内戦を続けてきた武装組織「モロ・イスラム解放戦線」のフィリピン政府との和平交渉を日本が導いたのであった。
モロ・イスラム解放戦線は40年近くイスラム系住民の独立を目指し、フィリピン政府と衝突を続けてきた。しかし2011年、日本の成田空港の近くのホテルにて、日本政府が仲介しフィリピンの前アキノ大統領とモロ・イスラム解放戦線のムラド議長の会談が実現した。
このことがきっかけとなり、2014年、モロ・イスラムとフィリピン政府は和平合意に至った。さらにその後日本はJICA(国際協力機構)を通じて、元兵士に対して魚の養殖技術を教育するなど、貧困層への援助を行った。