こんにちは。ひとりで.comです。
2017年6月13日放送のガイアの夜明けは「再び、巨大”規制”に挑む!「ガイアの夜明け」15周年企画「ニッポン転換のとき」第三弾~「バター不足」さらなる闇~」と題して自由な生乳の取引を目指すミルクマーケットジャパン(MMJ)の取り組みを追う。
バター不足にひそむ闇:指定団体と酪農家の取り組み
2016年11月のガイアの夜明けで特集したバター不足問題。ホクレンが生乳価格を統制して、意図的にバター不足を作り出しているのではないか?と疑念が持たれた回である。
【目次】
国産バターが足りない?高価な海外バター
兵庫県尼崎市にあるケーキハウスショウタニ。国産バターが作り出す、上質な風味が人気の秘訣である。地元から愛されるこのお店の店長兼社長が庄谷卓爾さん、長年こだわり続けてきたのが、北海道の牛乳、北海道のバター、北海道の生クリームを使用することである。
2年前ぐらいの夏から良いバターが充分に調達できなくなっていると言う。それを補うのが、海外産の輸入バターを使っていたが、良い輸入バターは価格が高い。良いバターは現地で1キロ約600円だが、日本に輸入されるとその価格が3倍以上の2,000円ほどになるのである。
東京都港区にある農畜産業振興機構(通称:エーリック)、農水省が所管する組織である。このエーリックという組織は海外のバターを独占的に取り扱うことが認められている。
エーリックは海外のバターを入札によって、一番低い価格で輸入し、再び入札によって国内に一番高い価格で販売を行っている。もともと安い輸入バターの価格を引き上げることによって国産バターの値崩れを防ぐことが目的だという。
取材を進めていくと…なんと輸入バターは売れ残って余っているというのです。
エーリックが輸入したバターを保管する倉庫が神戸市灘区にある。2016年度は1万7,000トンのバターを輸入した。2年前、エーリックが入札によって得た利益は82億円になる。
エーリックの役員10人のうち5人が農水省のOBや出向者となっており、典型的な天下り先という指摘もあるという。
農林水産大臣は、バターの不安については解消しつつあると言うが、この春を含め国産バターの価格は値上がりを続けてきている。家庭用のバター(200グラム)は現在約430円ほどで、この10年で4割近く価格が上昇している。
生乳の買取と指定団体制度について
牛から絞った生乳はまず指定団体と呼ばれるところに買い取られる。そしてそこから乳業メーカーに卸される。その生乳を加工業者がチーズやバター、牛乳などの製品にして、店頭に並び我々の手元に届く、というのが基本的な流れである。
実はこの指定団体、全国に10つあるのだが、全て農協系の団体である。そして、指定団体に全ての生乳を出荷した酪農家だけに補助金を与える仕組みとなっている。結果的にほぼ全ての生乳を農協系が独占しているという構図になっているのである。
北海道 | ホクレン農業協同組合連合会 |
東北地方 | 東北生乳販売農業協同組合連合会 |
北陸 | 北陸酪農業協同組合連合会 |
関東 | 関東生乳販売農業協同組合連合会 |
東海 | 東海酪農業協同組合連合会 |
近畿 | 近畿生乳販売農業協同組合連合会 |
中国 | 中国生乳販売農業協同組合連合会 |
四国 | 四国生乳販売農業協同組合連合会 |
九州 | 九州生乳販売農業協同組合連合会 |
沖縄 | 沖縄県酪農農業協同組合 |
こうした構図を変えようと動き出したのがミルクマーケットジャパン(MMJ)である。MMJは指定団体よりも高く生乳を買取り、安く乳業メーカーに卸すことを目指している。
MMJの茂木社長はバターを安く作ろうと全国の乳業メーカーと交渉を続けているが、指定団体との取引があるため、対応が難しいと断られてしまう。
群馬県前橋市にあるタカハシ乳業。ここは関東の指定団体から生乳を仕入れている。全て農薬や化学肥料を使わないで育った牛の生乳を使っている。それだけに高級品として高級スーパーにバターを卸しているというのであるが、バターは赤字だという。
実は、生乳は作る製品によって買取価格が異なるのである。例えば、牛乳を作るなら1キロ117円、バターであれば75円で買うことができる。これは、「用途別乳価」と言われ、生乳を安定供給させるために国が作ったシステムである。
ところが、指定団体がバター用の安い価格で売ってくれないため、牛乳用として仕入れをしている。したがって、牛乳用の生乳をバターに加工すると採算が合わないのだという。
関東の乳業メーカーが生乳を仕入れているのは、関東の指定団体である関東生乳販売農業協同組合連合会(関東生乳販連)である。50人足らずの組織ですが、取扱高は1,300億円にものぼります。
関東生乳販連に取材をしたところ
「飲用の方が高く売れるのに、有利な方を選ぶのは売る側として当然」
という。
用途別乳価という国が作ったシステムは機能していないことがわかった。
ホクレンがMMJに対抗し、賦課金という制度を実行
一方、北海道阿寒町に巨大な規制団体と戦う酪農家がいた。福田貴仁さん(32歳)。酪農を始めたのは6年前。脱サラして牛舎を買取り、奥さんと2人で酪農を続けてきた。
経営規模を拡大するため、指定団体からMMJに生乳買取先を変えたのである。福田さんが生乳をおさめていたのは、指定団体のホクレン。ホクレンは生乳流通の半分以上を握る農協系の組織である。
2016年7月に福田さんは指定団体ホクレンからMMJに切り替えたいと阿寒農協に持ち出していた。あれから数ヶ月、新しい牛舎が完成しようとしていた。総工費は牛の導入費も含めて5億5,000万円。全額銀行からの融資で補った。MMJに出荷する事業計画を銀行が高く評価し、融資が認められた。
こうしたMMJの取り組みに対してホクレンも黙ってはいなかった。
これまで、生乳の買取価格はホクレンが平均キロあたり88円だったのに対して、MMJは92.5円とその差が4.5円あったが、昨今のMMJの動きを受け、組合員の離脱を防ぐために88円から90.6円に引き上げるという通達を出したのである。
6月2日、阿寒農協の総会で福田さんはまさかの事態に陥ったのです。阿寒農協の組合長が提案したのが、賦課金という新たな取りくみだった。生乳の出荷量に対して、キロあたり0.5円の賦課金を徴収するというのである。しかも、農協に出荷をせず、MMJに出荷を行う福田さんに対しても同様に賦課金を支払う義務が生じるというのである。
結局、出席者の半数以上がこの賦課金の制度に反対だったにもかかわらず、この制度は可決されてしまったのである。
福田さんは、出荷量から計算すると月間10万円の賦課金が徴収されるという。突然導入が決まった賦課金の制度について組合長から納得のいく説明は聞けなかった。
海外で売れる日本の農産品
海外で評価されている日本の農産品。中にはかなりの高値で販売されているものがある。以前ガイアの夜明けでも取り上げた宮城県山元町のミガキイチゴ。
農業生産法人GRAが生産しているこのミガキイチゴは香港やマレーシアなどに出荷されており、日本の1.5倍から2倍ほどの値段で販売されている。
宮崎県串間市の おやついもというさつまいもは、国内では廃棄されがちなこぶりなさつまいもをおやついもとしてブランド化。台湾・シンガポール・タイなどで販売されており、日本の2倍から9倍の価格で販売されているという。
他にも以下のような製品が海外で販売されている。
製品 | 場所 | 価格 |
魚沼産コシヒカリ | パリ | 7,503円(2kg) |
神戸ビーフ | バンコク | 6,494円(100g) |
愛宕梨(あたごなし) | 香港 | 4,607円(1個) |
富有柿(ふゆうがき) | シンガポール | 1,621円(1個) |
世界一(りんご) | 北京 | 989円(1個) |
そして、いまMMJの茂木社長も酪農分野で海外に進出しようと動き始めていたのである。
自由な流通で生乳を海外へ
群馬県伊勢崎市のベイシア西部モール店で売れに売れている牛乳がある。それが「別海のおいしい牛乳」である。富士乳業が製造しているこの牛乳、一般的に牛乳と比較しても50円ほど安い。この牛乳は富士乳業がMMJから生乳を安く仕入れて安価で販売しているのである。
北海道の東部にある別海町に別海のおいしい牛乳の秘密があった。この牧場では10種類以上の原料で作った独自の餌を使って乳牛を育てている。ほとんどの酪農家が農協から飼料を買っているが、ここではアメリカの飼料会社と直接取り引きを行い、コスト削減を実現している。
さらに、それ以外の取り組みとして、ジャージーとホルスタインの交雑種を飼育している。生乳の1割ほど交雑種の生乳を入れることによって、まろやかさを演出しているのである。
25年かけて、ひたすら牛乳の味を研究してきていたのだが、その成果は長らく陽の目にでることはなかった。
というのも、指定団体に出荷を行う場合、各酪農家の生乳は混ぜられてしまい酪農家の努力が結果として現れない仕組みとなっていのです。
そこで、出荷先を指定団体からMMJ に変更することによって、「別海のおいしい牛乳」という独自のブランドを確立することに成功したのである。
そして今、別海のおいしい牛乳は世界進出を目論んでいた。
最初に選んだのは、台湾。台湾のスーパーでテスト販売を実施することになったが、そのスーパーの棚には、すでに世界各国の牛乳が並べられていた。ここでの販売価格は1本約720円。並べられている牛乳の中でも1番高い値段であった。台湾産の牛乳のおよそ2倍の値段です。
1ヶ月におよぶテスト販売の結果、台湾全土の450店舗での取り扱いが決定した。
MMJの生乳でバター作りを
北海道のオーストラリア領事館で、領事と会うMMJ の茂木社長。MMJ が集めた生乳でバターを作ろうと領事のロナルド・グリーン氏を話し合いを続けていた。
テレビ会議を通して、オーストラリアの乳業のコンサルタントとバター工場の建設について話をしていた。この日は、オーストラリアの技術を活用しようと、製造ラインの見積もりについて内容を詰めていたのである。
今回見てきたような規制が必ずしも悪いというわけではない。規制は製品や価格の安定をもたらす。しかしその一方で農産品が規制で守られているせいで私達消費者はより高い値段で商品を買うことになっているという側面もある。
今回のような試みは日本の農業を変える大きな転換点となる可能性を秘めている。こうした機会をきっかけに農業が更に強くなると私達消費者のメリットにもつながると考えられる。